映画

2022年1月18日 (火)

永遠のジャンゴ

現在のフランス映画界で最も好きな俳優の一人、レダ・カテブ主演の作品です。

この映画で聞くまで、ジャンゴ・ラインハルトという人のことは全く知りませんでした。戦前から戦後のパリでジャズやブルースなんて、ずいぶん新しい音楽だったろうと思ったら、ヨーロッパ初のジャズミュージシャンと考えられているらしいです。

でも、この時代の例に漏れず、ナチス支配下のフランスで苦労を重ねたんですね。彼に限らず、時代に翻弄された音楽家・芸術家は多かったのでしょうが、ジプシー出身の彼は自由人で、束縛されるのを人一倍嫌ったでしょうし。

後半は、他の映画でも描かれているアルプス越え(「ベル&セバスチャン」とか「少女ファニーと運命の旅」とか)による脱出でしたが、本当にあんな風に逃れたのでしょうか。この辺りは創作が入っているような気がしなくもありません。

ともあれ、彼の音楽が後世に受け継がれたことを喜ぶと共に、大戦中の迫害で命を落とした多くのジプシーにも思いを馳せました。


Django」(2017年フランス)

2022年1月17日 (月)

おかえり、ブルゴーニュへ

セドリック・クラピッシュ監督のワイン造り映画です。

最初のほうはあまり面白さを感じず、家を飛び出した長男のことも共感を持てなかったし、醸造家としての自分に自信のない妹や、妻の実家で遠慮している末弟の苦労は、それなりに理解はできたものの、それだけでした。

ただ、ワイン農家が舞台の映画はいくつも見てきましたが、ここまで具体的に一年を通してワイン造りが描かれるのを見たのは初めてだったし、品種の違いで収穫のタイミングを測ったりする様子は楽しめました。

後半は、長男の妻子がオーストラリアからやってきて、家族の微妙な関係や、そこから発展して徐々に理解し合っていく兄妹たちが、それぞれ成長していく姿はなかなか良かったです。

父が亡くなった後に相続税が払えず売却しようかと考える辺りはリアルでしたが、実際にワインを造っているメゾンではどう乗り越えているのでしょうね。

フランスのニュースで中国人が投資のために買ったりしてるって話も聞いたことがあるけど、それも相続税が理由の売却なのかな、なんて思ってしまいました。


Ce Qui Nous Lie」(2017年フランス)

2022年1月11日 (火)

マーメイド・イン・パリ

アニメかと思っていたら実写映画でした。

同じく人魚に恋をする「スプラッシュ」や、天使と恋に落ちる「天使とデート」を思い起こしましたが、青年相手の2作品と大きく異なり、40歳になろうという中年さしかかり男性っていうのがミソ。
とはいえ、ちょっと若き日のランベール・ウィルソン似で、見た目は悪くありませんでした。

何で普通は若い男性かというと、人魚や天使という存在を受け入れる純粋さや恋愛の未熟さっていうのがあると思うのですが、こちらの主人公ガスパールは、40歳でも心は大人になっていないようですし、恋愛経験は豊富でも失恋ばかりというのも、その辺りに原因があるのかなと考えたりしました。

「スプラッシュ」のダリル・ハンナや「天使とデート」のエマニュエル・ベアールと同様、こちらの人魚もキュートで、男性を虜にするのも納得でした。
ガスパールが歌声を聞いても平気っていうのは都合よすぎな気もしますが、そこはファンタジーってことで。

ガスパールのお父さん役チェッキー・カリョがいい味だでした。夫を殺されて人魚を追いかけるロマーヌ・ボーランジェ(「そして誰もいなくなった」)の鬼気迫る感じもすごかったです。


Une Sirène à Paris」(2020年フランス)

2021年12月12日 (日)

記者たち 衝撃と畏怖の真実

先週はウォーターゲイト事件を追った記者たちの映画を見ましたが、こちらは最近のイラク大量破壊兵器問題の真実を追った記者たちの話です。

まず驚いたのは、タイムズやポストではなく聞いたこともないナイト・リッダーという新聞社だったこと。リソースは絶対大手メディアのほうが上なのに、彼らが真実を明らかにした執念に感心しました。

一度は裏取りの間に先を越された時もありましたが、その後はどこもネタにしなかったようですし、政府の発表を疑ってかからない大手新聞社の様子に、「大統領の陰謀」や、その前の「ペンタゴン・ペーパーズ」の時代は何処へ?と思ってしまいました。

政権与党の共和党はもちろん、バイデンを始めとする民主党議員も、情報が正しいと信じて戦争に賛成したのでしょうか。この時代は「フェア・ゲーム」でも描かれたように、目的のために手段を選ばない情報操作がまかり通っていて、見ていて本当に恐ろしくなりました。

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バース・オブ・ネイション

1831年に白人に対して黒人奴隷が反乱を起こした事件の指導者ナット・ターナーの伝記映画で、アメリカ公開時から気になっていた作品です。

最初は、従順なナットがどうして立ち上がろうとしたのか不思議でした。地主のサムは子供の頃に一緒に遊んだ仲だし、大奥様も優しくてナットに読み書きを教えてくれたし、自分の処遇に疑問も抱かなかったと思います。

それが、聖書を学んで黒人の宣教師的立場となり、彼に奴隷を制御させる目的であちこちの農場に連れていかれ、各地で悲惨な状況の奴隷たちを目にしてしまったことで、変化したんですね。
更には、自分の身近な人たちも被害を被るに及んで、我慢ならなくなったということでしょうか。

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2021年12月 6日 (月)

大統領の陰謀

ディープスロートの映画を見たので、ポスト側の視点でウォーターゲイト事件を描いたこちらの作品も久々に見たくなり、視聴しました。

30年ぶり3回目ですが、今更ながら、若手記者2人の熱意が非常に感じられて、最初から引き込まれました。
ディープスロートは1から10まで懇切丁寧に情報提供してくれたわけではなかったし、他の情報源にも当たりながらも、なかなか裏が取れず苦労している様子に、見ているこちらもハラハラしました。

一筋縄じゃいかない政治家相手に、脅しをかけられて証言したがらない関係者をなだめすかしつつ、何度も足を運び各所に電話をかけてポロっと漏らした一言を突き合わせる、大変な作業だったことが分かりました。

そして、証拠の大切さも改めて感じました。今はネットで根拠のない嘘を広めることも簡単ですが、少なくともジャーナリストは、その労を惜しまず何重にも裏を取って報道する責任があると思います。でないと、「ニュースの真相」のようなことになりかねません。

それにしても、当時本物のディープスロートすなわちマーク・フェルトは、どんな思いでこの映画を見ていたのでしょうね。


All the President's Men」(1976年アメリカ)

ザ・シークレットマン

ウォーターゲイト事件の密告者ディープスロートが自分だったと、当時FBI副長官だったマーク・フェルトが名乗り出たのはごく最近のことですが、その彼についての実話映画化です。

フーバー長官の側近でFBIを動かしていた彼が、なぜ大統領を告発することにしたのでしょう。強大な権力を持っていたフーバーがタイミング悪く亡くなって、大統領の制御が効かなくなったからなのか、はたまた自分が順当に長官に昇進すると思っていたのに、大統領が自分の腹心を据えてしまったからなのか。

ウォーターゲイトそのものが凄い事件で、裏で情報捜査しようとする政府にFBIも対抗することができず大変だったのでしょうが、密告以外に事実を明るみに出す手立てはなかったのかと思っていたら、最初は単にFBIの操作を妨害する政府の動きをメディアの力で止めようとしただけだったんですね。

その時は知り合いのタイム記者にも話をしていたけれど、ワシントンポストのほうが粘り続けて、こういう結果になったということのかなーと思いました。


Mark Felt: The Man Who Brought Down the White House」(2017年アメリカ)

2021年11月23日 (火)

ファーザー

今年のアカデミー賞で、前評判の高かったチャドウィック・ボーズマンを押しのけ、アンソニー・ホプキンスが主演男優賞を受賞した作品です。

私にも高齢になってきた両親がいるので、幸い2人ともまだまだ認知症の気配もありませんが、やはり人ごととは思えずに見てしまいました。

主人公アンソニーの視点で描かれているので、娘アンの現実の状況はどれが正しいのか、すぐに分かりませんでした。ある時は父を置いて恋人とパリへ行くと言い、ある時は夫ポールと何年も結婚していると言い、自分の住居に父を引き取って世話しており、仕事の忙しい彼女に代わって世話係を雇うと言い・・・。

娘の姿もオリヴィア・コールマンからオリヴィア・ウィリアムズに変わったりするし、夫(と思われる)ポールもマーク・ゲイティスなのかルーファス・シーウェルなのか、なかなか判断がつきませんでした。

まるでパズルのようで、どれが本当か分からずストレスフルで、見ていてどんどん苦しくなり、これが認知症本人にとっての現実なのだと理解して愕然としました。
近い将来を思い、かなり考えさせられた映画でした。


The Father」(2020年イギリス・フランス)

2021年10月23日 (土)

サウンド・オブ・メタル

今年のアカデミー賞候補作で一番注目していた作品です。

耳が聞こえなくなるっていうのは、ただでさえ大変なのに、音楽を生業とする人が直面したら、自らの根幹に関わる問題なんでしょうね。
しかも、徐々に聴力を失うのなら、多少なりとも覚悟ができるでしょうが、ある日突然ほとんど聞こえない状態になったら、恐怖しかないと思います。

ルーベンの耳が急に変になって不安が広がっていく様子が、とてもリアルに描かれていて、コーヒーメーカーのコポコポいう音とか、自分にとって馴染みのある普段何気なく耳にしている音が聞こえなくなる状況が、うまく表現されていました。

恋人の勧めで聴覚障がい者のコミュニティを訪れたものの、手話のできないルーベンは皆の輪に入ることができずにいるのですが、子供たちの教育に参加するようになって、意識が少しずつ変わっていくところがいいと思いました。

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2021年9月26日 (日)

リュミエール!

シネマトグラフを発明したリュミエール兄弟の最初の活動写真(すなわち映画)は、これまでにも何回か見たことがありますが、これほどたくさんの作品を、一度に系統立てて見たことはありませんでした。

また、今回ティエリー・フレモーの解説のおかげで、単なる動画撮影と思っていたものが、きちんとした構図を考えられ、自然に見える配置を工夫し、1作50秒(!)という長さの中で完結するよう練られていたことが分かりました。

それに、ルノワールの絵画風とか、ヴィスコンティ風(彼のがもちろん後なんですけれどね)といったコメントも的を得ていて、なるほどと思いました。

中でもプレミオというカメラマンは、フレモーもタンタンになぞらえていましたが、海外にまで行って撮影し、当時の植民地ベトナムや、京都で剣道をする日本人の様子も!

時々不思議なストーリーもあり、それがまた面白かったりしましたし、ラストは感動的でもありました。

映画の歴史を知る作品として、永久保存版にするつもりです。


Lumière!」(2016年フランス)

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